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人を信じるということ

 

 

俺には、高校時代のクラスメートであるAという友人がいた。

Aは、誰よりも明るく、面白く、そしてカッコいい男だった。

人付き合いが不器用で、カッコよくもなかった俺からしてみれば、Aはまさに尊敬の的だった。

俺は、Aの才能の全てが、欲しかった。何度も、Aみたいな人間になりたい。強く、強くそう思った。

けれど、実際は、Aは決して俺が理想とするような、立派な人間ではなかったんだ。

 

 

 

あいつは、確かに面白い。俺は、あいつ以上に面白い人間を、知らない。

けど、あいつのお笑いは常に「誰かの犠牲の上に成り立っている」んだ。

俺は、その事を忘れてはいけなかったんだ。

 

 

 

帰りの電車の中で、俺はAと出会った。Aは、いつものように俺に絡んできた。

理由は、いつも同じ。

 

「えいじをいじると面白いから」

 

Aは、いつも俺の事をいじってそのリアクションを楽しむ男だった。

 

 

 

会話の途中、電車の中でいきなりAが爆弾発言をした。

A「お前、髪長いな・・・よし、今からえいじの髪、切っていい?」

俺は、正直「・・・バカかコイツ?」と思った。

Aは美容の専門学校に通っている事もあって、美容に関する道具の一式を常に持ち歩いている。

だから、いつでもどこでもカットしようと思えば、できない事もない。

けど、よりによって、電車の中で、公衆の面前でカットを始めるなんて、

こんな事を言うのも何だけど、頭が悪いとしか言いようがなかった。

俺は何度も拒否した。そんな馬鹿な真似に付き合ってられるかよ、と。

そしたら・・・

 

A「うーん、それなら、お前の髪型、俺にセットさせて!!

ついでに、お前髪型のセットの仕方、分かってないみたいだから、俺が教えるよ」

 

それでも、非常識だとは思った。電車の中だぞ、分かってんのか?

こんな場所でやる事じゃないし、どうせお前の事だ、

面白可笑しい頭にして笑いを取るつもりだろう、そう思った。

 

A「お前、俺が変な髪形にすると思ってるだろ?こんな場所でそんな事できないから安心しろ。

それに、俺は美容学校通ってるんだから、流行の髪形とかも知ってるんだから、任しとけ」

 

本当に、言い出したら止まらない男だ。そう思った。

何度、俺が拒否しても、コイツは俺にそう言ってくるんだろう。だったら・・・

 

俺「いいよ。どうせ髪型なら元に戻せるしね。その変わり、カッコよくしてくれよ」

 

俺は、Aの事を「信じる」事にした。

 

 

 

Aはタップリのジェルを手にとって、俺の髪につけ始めた。

俺は、ただ黙ってAに全てを委ねていた。そして数分後・・・

 

A「よし、えいじ、出来たぞ」

俺「鏡か何かで確認できないの?」

A「鏡はないから、俺が写メでお前の写真を撮ってやろう」

 

と言って、Aは俺の髪型の写メを撮影した。

 

俺「さてさて、どんな髪型になっているのかな・・・ん?」

 

俺が写メを確認しようとすると、Aが、写メを撮影した携帯を渡すのをなぜかためらっている。

そして、心なしか、その顔は笑っているかのようにも見えた。

 

俺「もったいぶってないで、見せろよ」

 

俺はAから携帯を受け取り、携帯の画面を覗き込んだ。すると・・・

そこには、40代のサラリーマンがするような、ガチガチに固められた7:3分けの写真が写っていた。

 

 

 

Aはそんな俺の姿を見て、大爆笑していた。

俺はAのそんな姿を見て、不覚にも、思わず・・・

 

殺そうかと、思ってしまった。

 

 

 

「お前、周りの皆が見てるんだぞ、自分のやってる事が分かってるのか?」

「冗談だって(笑)今度はちゃんとした髪型にするから」

「いや、もう、いいよ・・・」

 

俺は恥ずかしさに耐え切れず、慌ててセットされた髪をくしゃくしゃにして崩し、

その場に座り込んだまま俯いてしまった。

電車の一番後ろ側の、人の視線があまり集中しないような死角の比較的多い場所にいた事が、

せめてもの救いだったのかもしれない。

 

 

 

そうか。こんな仕打ちもお前からしてみれば「冗談」に過ぎなかったんだな。

お前は、昔からそうだった。

面白いけど、笑いを取るために、手段を選ばない、そんな所があった。

そして、俺は何度も、そんなお前の過剰な行動の犠牲になってきた。

お前は、どれだけ人の気持ちを傷つければ、弄べば、気が済むんだ?

いい加減「冗談」と「いじめ」の区別くらい、つけろよ。度が過ぎるんだよ、お前の行為は。

 

俺は、確かにお前の才能が、欲しかった。お前の才能の全てが、欲しかったんだよ。

だけどだ、それが・・・

他人の犠牲の上に成り立つ才能であると言うのならば、俺は、そんな才能、いらない。そう思った。

 

 

 

人を信じるということ。それは、とても難しい事なんだよな。改めてそう思った。

俺はAの事を信じた。けど、Aはそんな俺の気持ちを裏切った。

こんな時に「信じた俺がバカだった」よくそう思う。

けど「信じなければ良かった」とは思わない。

俺は、信じる事の大切さを学んだから。

 

 

 

俺には、大切な人の事を最後の最後で信じてあげる事が出来なくて、傷つけてしまった経緯があるから。

俺には、大切な人の信頼を、気持ちを、最悪の形で裏切ってしまった経緯があるから。

 

俺は、その人の事を信じていると思っていた。けど実際は、そう思っていただけに、過ぎなかった。

何度も、何度も謝った。けど、全ては遅かった。二度と、元の関係には、戻れなかった。

信じる事が出来なかったが故に、壊れてしまった2人の絆。

大切な人から信じてもらえない事って、一番辛い事だったんだね・・・ごめん、ごめん、ごめん・・・

自分の犯した過ちに後悔し、自己嫌悪に陥り、何ヶ月か、鬱に近い状態になり、苦しかった時期もあった。

 

「俺があの人の事を本気で信じてあげられたなら、こんな事にはならなかったのかなぁ・・・」

今でもそんな考えが頭の中を過ぎって、泣きそうになる事もある。

 

人を信じる事が出来なくて、その結果として、皆が傷ついていく。

そして、皆を傷つけた俺自身も苦しむ事になる。

それが分かっているのなら、人を信じる努力をしてみろよ。

俺は自分にそう言い聞かせるようになっていた。

 

 

 

人を信じて、その思いが裏切られた時は、当然、信じた自分自身が傷つく事になるだろう。

それでも、それで傷つくのが自分だけで済むなら、その方が100倍マシだ。

人を信じる事が出来なくて、信頼関係が崩れ、お互いの心に深い傷跡を残してしまうより、ずっといい。

 

だから、俺は何度信頼を、気持ちを裏切られようとも、人を信じる事を止めたくはない。そう思った。

まだ、全ての人を信じてあげられる程、器用じゃないし、広い心も持っていないけど、

少しずつ、少しずつ、心の壁を壊していければ・・・

お互いに信じあえる、本当の意味での友達、先輩、そして、恋人が出来るんじゃないかな。

そんな人間に、なれたらいいな。改めてそう思った、そんな出来事だった。

 

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